自らが電力会社になりたい
趣味は山登りなんです。富士山も登りましたよ。
それでは早速、お聞きします。2014年に電力事業の会社を立ち上げていますが、そもそもなぜこのエネルギーの領域に興味を持ち始めたのか、経緯をお伺いしたいです。
高校を卒業後は、京都大学の機械工学部に進学。
車やバイクも好きだったので、自動車エンジン専門の研究室に入りました。
将来的に自動車エンジンの時代が衰退してくるんじゃないかと。
若いながらに漠然とした不安もあり「もう少し視野を広げてみたい」と思ったのがきっかけですね。
当時、IHIが目指していた「技術をもって社会の貢献に発展する」というモットーは、今も僕の好きな言葉でもあります。
テクノロジーを生み出すことは社会貢献にもつながる。
技術者の一員として、そういった社会の恩返しの仕方もあるということをIHIで学びました。
ちなみに入社されてからは、どのような事をされていたんですか?
エネルギーに関するプラント分野において、エンジニアとして様々なプロジェクトに参加しました。
その経験で実感したのは、ものを作る上で大切なのは、「お客様第一」ということです。
エンジニア一個人が勝手にものづくりをしても、それは本人のエゴになり得るかもしれない。
実際に使っていただくお客様に寄り添うことで、本当に満足のいくものが提供ができると分かりました。
そういったことから「経営についてもっと学んでみたい」と関心を持つようになり、思い切ってコンサルファームに転職したんです。
当時から長年、エネルギー業界で働いていくつもりだったので、「歴史のある電力業界に少しでも影響を与えられるような会社を立ち上げたい」という思いを募らせていました。
エンジニアとしての知識があっても、経営に関しては皆無に等しくて。
なので、一から真面目に経営を勉強し始めました。
本当は、MBA(経営学修士)取得を目指して留学したかったのですが、そう思っていた頃には独身ではなく家族もいたので。
コンサルに転職しながら、コツコツと経営のいろはを学んでいましたよ。
色んな経営者にお会いする中で、様々なスキルを身につけられましたし、周りの人や環境にも恵まれたこともあり、コンサルへの転職は人生の大きな収穫になりました。
その後、マネジメントやネットワークなどの勉強も重ね、40歳を迎えるのを前に「そろそろ目標の舞台に立ちたい」と、今の会社を立ち上げることを決意したんです。
それこそ、20代中頃くらいから考えていました。
「自分の好きなものを作るのではなく、もう少し大きな視点から、社会貢献するためにはどうすれば良いか」。
その答えは、ただ一つ。「自分でやるしかない」ということだったんですね。
社会生活に欠かせないエネルギーを使った事業を
はい。1番最初に立ち上げた親会社が、elDesgin(エルデザイン)です。主な事業内容はコンサルティングになります。
立ち上げ当初は苦労しましたが、コンサル歴10年の中で、エネルギーに関する世界観や、将来像、仮説については自信がありました。
現在は、会社も軌道に乗り、徐々に規模を拡大している状況です。
2社目が、efficient(エフィシエント)です。
小売電気事業運営に関わる全ての業務をサポートしています。
2016年〜の電気自由化に伴い、新規参入者は増えてきてはいるのですが、全ての人がノウハウを持っているわけではない。
そこで、熟知している私たちを外注してもらい、事業の立上げから運営まで、お客様のニーズに合わせてサポートする会社を作りました。
もう一つ、僕の中に「地方創生」というキーワードがあります。
「地方創生をしていくなかで、地元に還元していく」。
豊かな緑に囲まれた長野県富士見町という場所にオフィスを借りることができました。
その町で電気を売ることになったのが、2社目を作るきっかけにもなっています。
違う会社の方と協力されて?
たまたま社長さんが集まる飲み会が催されて、その日は夜通し飲んでいたんです。その時に、「みんなで何かやろうぜ」という会話になって。
「実は、こういうことをやろうと思っている」と打ち明けたら「いいね、いいね」ってなりました。
じゃあ誰が出資するかって話にも広がり、最終的には4社ぐらいで始めることになりました。
みんな社長だから「やろう」って声を合わせたら、最終的にやるんですよ(笑)
エフィシエントが徐々に大きくなってくると、顧客基盤が出来始めたので、電気の調達のために、3社目のenetrade(エネトレード)を作りました。
小売電気事業者が抱える電源調達をするためにも、ある程度のボリュームを稼がないといけない。
いわゆる「ボリュームディスカウント」というものですよね。
それをまとめる機能を作ったのがエネトレードという会社なんです。
電気をまとめて買ってきて、皆さんに分けるという仕組みです。
そして、4社目にrenewable trade(リニューアブルトレード)を作りました。
これは再生可能エネルギーを軸にした会社です。
そうです。会社の事業を、①普通の火力発電所等の電気と②再生可能エネルギーとで分けました。
地方創生への想い
社会貢献を考えた時に「必要不可欠なものを提供する」ことが一番大切であると思ったんです。社会生活に欠かせないような領域に対して、コミットしていきたい。
また、地方創生を目指していきたい気持ちもあります。
僕自身が田舎の出身だからかな。
しかし、現地では過疎化がさらに進み、町の景色がどんどん変わってきています。
町の活気のためにも大事な商店街はなくなるし、空き家も増えていく。それを目の当たりする度に、「何とか出来ないか」と帰省するたびに、自問自答していました。
昔からある日本の良いところや文化がなくなってしまうのは寂しいですよね。
そのため今、長野でやっているような地域創生の取り組みは、今後、色んな地域でも広めていきたいと望んでいるプロジェクトでもあります。
少しでも地方でお金が回っていくようになれば。
例えば、今は電気事業のみ着手していますが、いずれは、ガスや水道かもしれないし、交通かもしれない。
地域のインフラを整えていけるような会社として成長していきたいですね。
そういったものを作るためのきっかけとしても、人々の生活の基盤となる電気事業からスタートしました。
一番必要なものとして社会に貢献できるのはインフラなので、エネルギーの領域だけではなくて、皆さんが使うようなものは、興味を持ってやっていきたいです。
高齢化に人口流出など。地方の課題は山積しています。
人がいないと日本伝統のお祭りさえも開催出来なくなってしまう。
地方にきちんとお金と雇用を生み出す仕組みを作ることが使命だと感じております。
僕まだ人生45年ぐらいしか生きていないけど、30年前に見ていた景色と急速に変わったと思います。
だからこそ、もう少し頑張って貢献していきたいです。
地方を盛り上げたいという気持ちはあっても、それこそ、どのように盛り上げればいいかわからず、行動できない人も多いと思っているのですが、坂越さんはどうお考えですか?
自分のふるさとだけに留まらず、日本全体を見て、地方の良さを残していく仕組みを整えたい。
無理に変わりたくない場所は変わらなくていいし、変わりたい所に対しては手助けできればいいかなと、そのような意思を持ち続けています。
そうですね。急に変わるわけじゃないですからね。
例えば、水を沸騰させると、時間が段々と経ってから熱湯になるじゃないですか。それと同じで、年に1回ぐらいしか帰省しないから「変わっちゃったな」って思うけど、毎日、その場所に住んでいる人からすれば、そんなに分からないんですよね。
10年、20年のスパンで考えた時に「えっ、なんでこうなった」というケースばかりだと思います。だから地元の人に、いきなり危機感を持てと伝えてもそれは無理な話でして。
それに、変わるって怖いじゃないですか。そんなの先送りにしたい、しょうがないと思っている人には、話を聞いてもらえないこともあります。
そういう場合は、無理に話をせず、このままではいけないと感じている人がいれば手伝うというスタイルです。
生きていけなくなった人は地元を出ていってしまうから。
でも何もしないと状況は変わらないし、何かをすることで、初めて結果が生まれるんです。
「何らかのアクションを起こして、それが結果として出てくる」。
そういう意識を社員にも強く伝えています。
戦う前から勝負は決まっている
起業するのであれば、社会に対するインパクトを忘れないで欲しいなと思います。
僕はゼロからやったのは最初の会社だけですが、ゼロから始めるのは本当に大変だし、起業の当たる確率はそんなに高くはないのかなと。
厳しく聞こるかもしれませんが、生やさしい世界ではないような気はします。
僕にはもう社員も何人もいるから負けられないし、負け試合にならないようにするしかないです。
そういう時、経験ってすごく大事だなって感じます。
社会の常識にとらわれてはいけないと良く言いますが、社会の常識に従わなければいけない場合もあります。
勝手にやったら怒られるので、ちゃんと準備しないといけない(笑)
「やってみないと分からない」ということなんてないです。
だいたいやる前から勝負は決まっている。
「やらなければわからない」のは準備が足りないのだと思います。
馬券と一緒で当たる時もあれば、負ける時もあります。
それを自分の中だけでやるのであればいいけど、社員を巻き込んではいけない。社員が何人もいる中で打っていいのは、負けても痛くないくらいの博打だけです。
戦いなんて、戦う前から勝負は決まっているんですよ。
どうなるかわからないような勝負はしてはいけないと思います。
必ずしも勝つ必要はないですけど、負けてはいけない。
やってみないと分からないところも、細かい部分ではもちろんありますが、悪いほうに転んでも何とかするのが、本当の経営だと思います。
負けない、もしくは負けても痛くないレベルで抑えるのがベストですね。
本日はお時間いただきありがとうございました!